文庫目録を見る3 内容紹介編2

昨日の日記では同じ本における各出版社の内容紹介比較をしてみました。

今日は内容紹介そのものを見てみましょう。

読んだ事のある本を目録で確認してみたこと、ありますか?かなり無茶な事になっていませんか?もの凄い力技で強引に要約。時に笑いをさそわれることすらあります。
そりゃそうなんだけどさあ、とは思うものの、当の本を読んだ事が無い人にその紹介文だけ読ませたら、まるっきり別の物語が出現する危険がなきにしもあらず。逆にいうと、読んだ事の無い本を紹介文だけをヒントに勝手に想像することだってできるわけです。

まず、この紹介文を読んでください。タイトルわかりますでしょうか。新潮の目録からです。


教え子と恋愛事件を引き起こして学校を追われた元教師の、女性に対する暗い情念を描き出し、幽艶な非現実の世界を展開する異色作


注意しておきますが、野島某氏の「人間・失格」(古っ)ではありません。



もう一点。


女を愛することの出来ない同性愛者の美青年を操ることによって、かつて自分を拒んだ女たちに復讐を試みる老作家の悲惨な最期


どっちも間違ってはいないんですけどね。


しかし昨日も書きましたが、新潮社の紹介文はどれもこれもミもフタも無いですね。
正解は川端の「みずうみ」と三島の「禁色」。どっちもたしかにミもフタも無い話ではありますが。この本を紹介文を先に読んで内容を想像した後に本体読んだら、どういう感想を持つのでしょう。私だったら「・・・的確だ・・・」としみじみとつぶやくと思います。




もちろん純粋に紹介文を味わうのも楽しいものです。
文章にリズムがあり、しかも個性的で声に出して読みたくなるような紹介文があります。東京創元社解説目録の「江戸川乱歩」。これ凄くかっこいいんですよ。たとえば


燐光を放つ双眸炯炯と、野獣の膂力を持つ人間豹。人と豹のあわいに生れ落ちたか、千古に解き難き謎を秘めた怪物は、帷幄の臣たる父親と戮力協心、神算鬼謀をもって帝都市民の心胆を寒からしめる。さしもの名探偵明智小五郎も一敗地に塗れ、不逞の輩はあろうことか明智夫人に毒手を伸ばす。文代さん危うし!


読んでるだけで弁士がしゃべっているような錯覚に陥りませんか?この本が書かれた年代と内容と紹介文が見事に一致。気持ちが良い。作品は「人間豹」です。



細かく挙げ続けてもキリが無いので、内容紹介編はこれで終わりにします。
次は解説者編。




最後にオマケ。



人間の思考を超えた心的跳躍のかなた、究極の中心クロスホエン。この世界の中心より暴力の網は広がり、全世界をおおっていく・・・暴力の神話、現代のパンドラの箱を描いた表題作(以下略)


ハヤカワ文庫、ハーラン・エリスン世界の中心で愛を叫んだけもの」です。例のあの本を読んでいて、タイトルの由来をご存知の方は多いと思いますが(エリスンエヴァ→例の本ね)、内容を知っている方はSFファン以外では少ないんじゃないでしょうか。私は担当編集者の方もご存知無かったモノだと踏んでますが。ヴァイオレンスなのですよ。強引にまとめてますが。今更な話なんですけどね。