文庫目録を見る2 内容紹介編1

深夜になって気がついた。明日法事なのに冠婚葬祭用のパンプス探してない。どこやっちゃったんだ我。無くしようがないだろう、あんなモノ。そうだ、数珠とネックレスはどこだ。おかーさーん!
・・・明け方みつかった・・・よかった・・



さて、内容紹介。
まず、比較からはじめてみましょう。
複数の出版社に同じ本が納められている場合、ありますね。古典や名作に多い。ミステリもまれにあります。
この場合の各出版社の内容紹介、どう違うのでしょうか。
名作の取得版権が重なっているのが意外にも角川と新潮。今日はこの2社に絞りたいと思います。
とりあえずこの内容紹介から。


1.  この作品は後期三部作の終曲であり、漱石文学の絶頂をなす。誠実ゆえに自己否定の試みを、自殺にまでおいつめなければならなかった漱石は、そこから「則天去私」という人生観にたどりつく。


2.  親友を裏切って恋人を得たが、親友が自殺したために罪悪感に苦しみ、みずからも死を選ぶ、孤独な明治の知識人の内面を抉る秀作


はい、漱石の「こころ」です。さて、どっちが新潮でどっちが角川でしょう。

正解は1が角川、2が新潮。ちょっと不思議な感じしませんか?新潮の方が解りやすいんですね。イメージ的には角川の方が噛み砕いた文章になっているように思ってたんですが。

漱石に関していえば、角川は全体的に「テーマ」を紹介していて、新潮は「ストーリー」を紹介している。


しかし新潮はミもフタも無いですね。



次はこれ。泉鏡花の「高野聖


1.  淫心を抱いて近づく男を畜生に変えてしまう美女に出会った、高野の旅僧の幻想的な物語「高野聖」等、独特な旋律が奏でる鏡花の世界


2.  優しいなかに強みのあるおかし難い気品。白桃の花のような女。奥山の孤屋に病気の夫と世をわびる哀れさ。一夜の宿をかりた旅僧の心は乱れ騒ぐ。思いつめた時、はからずも女の秘密を知る。


1は「歌行燈」も収録されています。
2を書いた担当者は欲求不満が溜まってますね。大丈夫ですか?完全に自分に酔ってますよ?


1が新潮。2が角川です。


ちなみに集英社だとこう。


魔と夢が交錯するエロスと幻想の世界!飛騨から信州へ、峠をたどる旅の僧が、美しい女の住む山中の一軒家で一夜の宿を乞う。その夜・・・。(以下略)


どんなさわやかな物語なんだ。鏡花に「エロス」という言葉と「!」という記号は似合わないのではないか。「エロス」を「耽美」という言葉に置き換えてもおかしな事になりそうな気もするが。




全体的に角川の方がマニアックな印象をうけます。「みんな知ってるんだから説明必要ないよね!」として、作品概念に的を絞ってるのかな?新潮の方が内容を「要約しよう」と心がけてる感じ。



2社を比べただけですが、一般的に内容が知られている「名作」ですら、これだけ違うわけです。「こころ」は集英社文庫にも収められています。こちらの紹介文はもっとわかりやすい。対象の年齢層が低いんでしょう。

今回は名作を2点だけ比べてみましたが、ミステリも面白いものです。たとえば有栖川有栖の「海のある奈良に死す」は双葉社文庫と角川文庫に収められています。お暇があれば探してみるのもまた一興。