花組芝居 『素ネオかぶき ザ・隅田川』 草月ホール


これから観る予定の方、観劇前に一応チラシかパンフかで、大体の人間関係と話の流れは押さえておいた方がいいかもしれません。もちろん何も考えずに、この劇団特有の勢いと空気に身を任せたい方はそれでも楽しめると思いますが。
個人的な感想を言わせていただくと、『傑作』です。



ネタばれします。これから観劇予定の方、お気をつけください。






歌舞伎のいわゆる『隅田川物』をパッチワークのように組み合わせてひとつの物語に仕立て上げた作品。予備知識が無いと、追いついて行くのに少々辛いかも知れません。



『素ネオかぶき』と銘打ってあるように、今回はいつものように絢爛な衣装も白塗りもありません。黒の紋付にカラシ色の揃いの袴のみ。しかしセットは壮観でした。舞台全体に桜が下げられています。暗闇に浮かび上がるように。



パンフレットより

物語は吉田家の嫡子松若が弟の梅若をそそのかし、お家の重宝「鯉魚の一軸」に目を入れたとたん、鯉の絵が逃げ出してしまった事に端を発する。事の重大さに恐れをなして出奔した松若を、死んだと思い込んだのは許婚の花子。松若の死を悲しみ、生まれつき左手が開かない妹、桜姫と共に剃髪を決意する。
一方、入間家に仕える局岩藤は、花子のお気に入りの中老尾上が目障りで仕方がない。ついには''一軸泥棒''の汚名を着せ、万座の中で折檻。尾上は悔しさのあまり自害し、残された召使お初は尾上の仇討ちのため、岩藤を手にかける。
行方不明になっていた「鯉魚の一軸」は流れ流れて今は惣太のものとなっている。そこへ押しかけ女房にやってきた花子太夫。惣太まんざらではないが、実はこの太夫、松若が化けていたのだ。松若は、惣太を殺して一軸を取り戻そうとするが、そこに尼になった花子が現れ、各々の想いが乱れるなか、鯉が掛け軸に戻ると、今までの物語は全て隅田川の水底へと沈んでいってしまうのだった


これでわかるように、話自体が非常に複雑です。この『ザ・隅田川』、まだ深沢敦さんがいらっしゃった頃のものをビデオで観た事があるのですが、この時の物から全面的に書き換えています。なので、ストーリーについては全く語れません。でも座長が「岩藤」*1大好きなのはよくわかる。『奥女中たち』もそうだったしね。
なので、主に役者さんについて感想。


お初役の嶋倉さん、上手くなったなあ!岩藤を手にかけるところなんて、大向こうから「月城屋!」*2と掛け声が出たくらい。震えが来ました。久々にヨメに行きたいと思ったほどです。*3


潤ちゃん素で見るとやっぱ男の人なんだなあと思いました。余談ですが、もらったチラシに9月に新橋演舞場で上演する『和宮様御留』があったんですね。これがまた見事なジェンダーフリーっぷりで。機会があったら是非見ていただきたいんですが、並み居る新派(女性ですね)の方々を差し置いて、潤ちゃん「フキ」役。そして誰よりも可憐。あんたおかしいよ!なんでそんなに可愛いんだよ!素だと不惑直前スキンヘッドのファニーな神田山陽」なのに!ああ、わかった。受けて立とうじゃないのさ!
というわけで、私これ観に行くことに決めました。こないだ花組で上演したヤツの改訂版だしね。今回不参加の八代さんも出るし。


新人さんたちもなかなかでした。花子役の堀越さん、良い意味でクセが無い気がします。この劇団には貴重なんじゃないでしょうか。全員個性が異様に強い俳優さんたちなので(昔演劇ぶっくに「偏った役者のオンパレード」とか書かれてた)。次回公演『百鬼夜行抄2』の『律』はこの子がやりそうな気がします。当然司ちゃんは秋葉さんでしょう。梅若役の美斉津さん、この日はお母様とお姉様がいらしていたそうですが、褌いっちょの男2人がまぐわっているシーンとか観てどう思われたんでしょう。諦めて下さい。花組芝居こういう劇団です。
小林さんはなんか水下さん系かな。立役として上手く育ってほしいなあ。後見人に虐げられてる磯村さん・・がんばれ!



花組の偉いところは、きちんと若手を育てているところだと思います。今回3人が正式に座員に加わり、口上があったのですが、もうこの時点できちんと「客に観せられる演技ができる」状態になっているんですね。ある程度形になっている。観てて不安にならないのです。もちろん演技には絶対的に「経験」は必要で、それはこれから培って行くわけですが。2人研修生が参加していたのですが、演技の差は歴然としています。この人たちもきちんと育てられて、次公演か次々公演には正式に座員として口上をのべるのでしょうね。どっかの劇団に見せてやりてえなあ。

男性ばかりの、しかもこれだけクセの強い劇団に、どういう経緯で「入ろう」と思ったのか定かでは無いのですが、切れ目無く研修生がいるというのは立派です。公募してないのに。




全体的な感想なんですが、好みもあるかとは思うのですが、見事な舞台だったと思います。とても面白かった。場面場面を踊りでつなぐのも(10人以上のいい年の男たちが満面の笑みで扇子片手に踊りながら横切っていくのを観ると、「ああ、花組芝居だなあ」としみじみ思う)、衣装無しも、全く違和感無し。振り付けも、最後の卒業式のような役者紹介も良かった。

あ、あと特筆すべきことがありました。


全員脛毛剃ってた。







帰りに新橋まで足を伸ばし、友人の同僚推薦の『恭恭』という店で激ウマ『塩モツ鍋(つみれ入り)』*4を食し帰宅の途へつきました。服に燻されたニオイが焚き染められてしまっていたため、周りにはさぞご迷惑をおかけした事だろうと思います。ごめんなさい。



充実した二日間でした。これで2ヶ月くらいは生きていけそうな気がします。
お会い出来た方々、本当にありがとうございました。

*1:ミス便所下駄

*2:花組役者には歌舞伎と同じように屋号があります。座長の加納さんは『二子玉屋』

*3:バカじゃねえの。

*4:焼き鳥も甘えびの塩辛も何もかも美味かった。しかも比較的良心的なお値段。